「親が残したアパート、屋根と外壁がもう限界だと業者に言われました。でも何百万円も出せません」。柏市と近隣でこのご相談をいただく回数が、ここ数年で明らかに増えています。昭和の終わりから平成のはじめに建った木造アパートが、ちょうど一斉に大規模修繕の時期に入っているからです。
先に結論をお伝えします。出口は3つしかありません。借りて直して持ち続ける/現況のまま(入居者ごと)売る/退去してもらって解体し、土地として売る。どれが得かは、これから10年で必要な修繕費、いまの家賃収入、そして土地の値段——この3つの数字で決まります。
この記事では、その数字の出し方と、柏市での判断の分かれ目を順番に書きます。
結論:出口は3つ。決めるのは「10年分の修繕費」
修繕費が出せないという状態は、それ自体が答えではありません。「いくら足りないのか」が分からないまま悩んでいる方が、いちばん多いです。
- 選択肢1:借りて直して持ち続ける……家賃収入で返せるなら、これが一番残ります
- 選択肢2:現況のまま、入居者ごと売る……修繕せずに手放す。いちばん早くて確実です
- 選択肢3:退去してもらって解体し、土地として売る……時間とお金はかかりますが、土地値が高いエリアなら手取りが最大になることがあります
判断の分かれ目は単純です。10年で必要な修繕費が、10年で入る家賃の手残りを超えるなら、持ち続ける意味は薄くなります。逆に超えないなら、直して持つほうが残ります。まずはこの比較ができる状態にしてください。

修繕費が出せないというご相談で、いくら足りないのかをご存じの方は少ないんです。まず金額を出しましょう。
まず出すのは「これから10年で必要な修繕費」
1回の外壁塗装の見積りだけを見て「高い、無理だ」と判断してしまうのは危険です。築30年を超えた木造アパートでは、修繕は1回で終わりません。項目ごとの目安はおおよそ次のとおりです。
| 項目 | 費用の目安 | 周期の目安 |
|---|---|---|
| 外壁塗装(10戸規模) | 150万円以上 | 10〜15年 |
| 屋根塗装 | 30万円台〜 | 15年 |
| 屋根の葺き替え | 80万円台〜 | 20〜30年 |
| 防水工事 | 1㎡あたり3,000〜5,000円 | 10〜15年 |
| 給湯器の交換 | 1戸あたり10万円程度 | 10年 |
| エアコンの交換 | 1戸あたり10万円程度 | 15年 |
| 階段・鉄部の塗装 | 5万〜30万円 | 5年 |
| 排水管の洗浄 | 5万〜10万円 | 5年 |
| 退去時の原状回復 | 1戸あたり数万円〜十数万円 | 退去のたび |
すべて目安です。建物の規模・階数・立地・傷み方で大きく変わりますので、必ず現地を見た見積りで確認してください。
これを積み上げると、築30年前後の木造10戸のアパートで、今後の修繕費の総額が1戸あたり170万〜220万円程度、1棟で1,700万〜2,200万円程度という試算になることがあります。1回の外壁塗装が150万円だからと安心していると、桁がひとつ違う世界が待っています。
やっていただきたいのは、この表を使った「10年表」の作成です。何年目に何をいくらで、と紙に書き出す。そこにいまの家賃収入から固定資産税・保険・管理費・空室損を引いた手残りを並べる。この2列が出た時点で、答えは半分見えています。
選択肢1:借りて直して持ち続ける
手元にお金がなくても、借りて直すことはできます。ただし相続した築古アパートの場合、ここで壁にぶつかる方が多いです。
理由は融資期間です。木造アパートの法定耐用年数は22年です。金融機関は「耐用年数の残り」を融資期間の目安にすることが多いため、築30年の木造アパートでは、そもそも長い期間で借りられません。短い期間で借りれば、毎月の返済が家賃収入を食い尽くします。リフォームローンや無担保のローンだと金利も上がります。
それでも成立するのは、次のような場合です。
- 入居率が高く、家賃が近隣相場より下がっていない
- 直す範囲を絞れる(外壁と屋根だけ、雨漏りしている棟だけ、など)
- 他に担保に出せる資産があるか、自己資金を一部入れられる
- 相続人が一人で、意思決定が早い
逆に、空室が3割を超えている、相続人が複数で意見が割れている、建物が旧耐震で傾きや雨漏りがある——このいずれかに当たるなら、直しても回収できない可能性が高いです。「直せば貸せる」と「直したぶんが家賃で戻る」は、まったく別の話です。
なお、相続したアパートの減価償却は、親御さんの取得価額と耐用年数、未償却残高を引き継ぎます。すでに償却が終わっている物件では、経費に落とせる金額が少なく、家賃収入にそのまま税金がかかります。ここは税理士にご確認ください。

「売る前にきれいにしないと」と思うでしょ。アパートは逆。直した分が価格に乗るとは限らないんだ。
選択肢2:現況のまま、入居者ごと売る
いちばん早くて確実な出口です。修繕せず、荷物も片付けず、入居者にも退去してもらわないまま、そのまま売ります。オーナーチェンジと呼ばれる形です。
価格は、家賃収入から計算した価値と、土地そのものの値段の両方をにらんで決まります。修繕が必要な状態であることは、当然価格に織り込まれます。これから1,700万円かかる建物なら、その分は買主が負担する前提の値段になります。「相続税評価額より安い」と感じられることも多いのですが、それは評価の仕組みが違うだけの話です。価格の決まり方は入居者がいるアパートを相続。柏市で売るときの価格の決まり方に詳しく書きました。
この形で売るときの注意点は3つです。
- 契約不適合責任……雨漏りやシロアリを知っていて黙っていると、引渡し後に責任を負います。分かっていることは全部出してください。買取であれば、この責任を免除する条件で契約できる場合があります
- 賃貸借契約の引継ぎ……敷金、家賃の入金日、滞納の有無、更新の時期。契約書が見つからない部屋があると、そこで止まります。管理会社に残っていることも多いので、まず問い合わせてください
- 売る時期……入居者が減るほど価格は下がります。「退去が続いてから相談しよう」は、たいてい損になります
選択肢3:退去してもらって解体し、土地として売る
土地値が高いエリアでは、この形が手取り最大になることがあります。柏駅や柏の葉キャンパス駅の徒歩圏、南柏・北柏の駅近などでは検討の価値があります。ただしハードルは高いです。
まず、貸主の側から「出てください」と言うには、借地借家法第28条の正当事由が必要です。建物の老朽化が著しく、安全上も使い続けられないという事情は正当事由になり得ますが、それだけで通るとは限りません。実務では立退料を支払って合意退去していただく形が大半です。
立退料は法律で決まった金額ではありません。1戸あたり家賃の6か月〜1年分程度に引越費用を加えた額が、よく使われる目安です。部屋の事情(高齢の単身者、長期入居者、店舗併用)によって大きく変わります。10戸のアパートなら、これだけで数百万円になります。
解体費用は、木造で延床1坪あたり3万〜5万円程度が目安です。延床50坪のアパートなら150万〜250万円程度。これに残置物の処分費が乗ります。加えて、一定規模以上の解体工事ではアスベストの事前調査と結果の報告が義務づけられていますので、調査費用も見ておいてください(該当するかは解体業者にご確認ください)。
そしていちばん見落とされるのが固定資産税です。アパートが建っている土地は、住宅用地の特例で課税標準が下がっています(戸数×200㎡までの部分が6分の1、それを超える部分が3分の1。都市計画税は3分の1と3分の2)。解体して更地にすると、この特例が外れます。売れるまでの間、固定資産税が数倍に跳ね上がります。更地にしてから買主を探すのは、時計が回り始めた状態で走ることになります。空き家の固定資産税の考え方は柏市の空き家、固定資産税はいくら?にまとめています。

階段と手すりとブロック塀。この3つだけは、売る前でも必ず直してください。事故は所有者の責任になります。
3つを手取りで並べてみる(数字はすべて仮の例)
柏市内、駅から徒歩15分、土地180㎡、木造2階建て8戸、築32年、うち3戸空室。こういう物件を想定した比較です。実際の金額は物件ごとに全く違いますので、考え方の型としてご覧ください。
| 直して持つ | 現況のまま売る | 解体して土地で売る | |
|---|---|---|---|
| 今後10年の支出 | 修繕1,400万円+返済利息 | 0円 | 立退料400万円+解体200万円+残置物50万円 |
| 入ってくるお金 | 家賃の手残り(10年分) | 売却代金 | 売却代金(更地) |
| かかる時間 | ずっと | 1〜3か月(買取) | 1〜2年 |
| 読めないリスク | 追加の修繕、空室、家賃下落 | ほぼない | 退去交渉が進まない、固定資産税の増加 |
| 向いている方 | 入居率が高く、相続人が一人 | 早く確定させたい、遠方に住んでいる | 土地値が高く、時間に余裕がある |
この表で大事なのは金額よりも「かかる時間」と「読めないリスク」の行です。ご相談をお聞きしていると、手取りの差が100万〜200万円しかないのに、1年半の交渉と近隣対応を引き受ける選択をしてしまう方がいます。ご自身の時間と気持ちの負担も、同じ表に並べてください。
やってはいけない3つのこと
順番として、これは避けていただきたいという話です。
- 安全にかかわる修繕まで止めてしまう……外壁の塗装は延ばせても、階段の腐食、手すりのぐらつき、ブロック塀の傾き、落ちそうな軒天は延ばせません。民法第717条で、土地の工作物の設置や保存に欠陥があって他人に損害が出た場合、占有者や所有者が賠償責任を負うと定められています。売るつもりの建物でも、ここだけは先に直してください
- 空室を埋めるために条件を大きく崩す……売る前に入居率を上げようとして、相場よりかなり安い家賃で決めてしまうと、その家賃が価格計算の元になります。埋まったのに価格が下がる、という結果になりかねません
- 一社だけの見積り、一社だけの査定で決める……修繕の見積りは会社によって倍近く違うことがあります。売却価格も同じです。修繕なら2〜3社、売却なら仲介の価格と買取の価格の両方を並べてから決めてください
もうひとつ。相続人が複数いる場合は、先に「誰が決めるか」を決めてください。アパートを共有名義のままにすると、修繕も売却も全員の同意が必要になり、どちらにも進めなくなります。兄弟での進め方は相続した実家を売るとき、兄弟でもめないための進め方をご覧ください。
リノーズにできること
私たちは柏市を拠点に、松戸市・流山市・我孫子市・野田市を含む東葛エリアで不動産の買取と仲介をしています。代表の私は独立する前、リフォームと賃貸管理の仕事を15年しておりました。修繕の見積りを見て「これは必要な工事」「これは今やらなくていい工事」を分けるのは、いちばん慣れている領域です。
アパートのご相談では、まず修繕の10年表と、3つの出口の手取りを1枚に並べてお出しします。そのうえで、直して持つほうが残ると判断できるなら、素直にそうお伝えします。売らないという結論になっても構いません。
売る方向であれば、入居者がいるまま、修繕しないまま、荷物もそのままでお引き受けできます。私たちが直接買い取る場合は仲介手数料がかかりません。引渡し日を先に決められるので、相続税の申告期限や、他の相続人との精算の時期に合わせて組めます。条件は不動産買取、片付けから登記、引渡しまでまとめてお任せいただけるのが実家まるごとパックです。
まとめ
- 出口は3つ。借りて直して持つ/現況のまま売る/解体して土地で売る
- 判断の材料は「今後10年の修繕費」「家賃の手残り」「土地の値段」の3つ
- 築30年前後の木造10戸で、今後の修繕費が1棟1,700万〜2,200万円程度になる試算もある(目安)
- 木造の法定耐用年数は22年。築古アパートは融資期間が短くなり、借りて直すのが成立しにくい
- 現況のまま売るのがいちばん早い。修繕費は価格に織り込まれる。契約不適合責任と賃貸借契約の引継ぎに注意
- 解体して土地で売るには、借地借家法第28条の正当事由が必要。立退料は家賃6か月〜1年分+引越費用が目安
- 更地にすると住宅用地の特例が外れ、売れるまでの固定資産税が跳ね上がる
- 安全にかかわる修繕は止めない(民法第717条の所有者責任)。相続人が複数なら先に決定権者を決める
いまのアパートがいくらになるのかは、住所・建築年・戸数・家賃表が分かればお調べできます。無料査定は最短30分で価格と査定書をメールでお送りします。「修繕の見積りが出ていて、払えるか分かりません」とお書き添えください。修繕の見積りを見せていただければ、直して持つ場合と売る場合の手取りを並べてお出しします。
金額はすべて目安です。制度と相場は変わりますので、修繕費は複数の施工会社、固定資産税は柏市資産税課、税金は税務署または税理士、立退きの交渉は弁護士に必ずご確認ください。この記事は令和8年9月時点で確認した内容です。
リノーズ株式会社 代表取締役 美澤由佳子



